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志賀泉の「新明解国語辞典小説」

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んだ

2012/07/09

んだ
〔東北・関東方言〕相手の発言を肯定する気持ちを表わす。

 んだ。=肯定
 んだな。=同意
 んでね。=否定
 んだべが。=疑惑
 んだべした。=強調
 んだべげんちょも。=反論
 んだがもしんにげんちょも。=強い反論

 んだ。この肯定は苦い。「ん」で口を結び、肯定する事柄をぐっと腹に呑み込み「だ」で吐き出すように断定する。
 んだ。肯定しながら、半ば口籠もる。口籠もりながら、語気は強い。怒りも、諦めも、悲しみも、「んだ」の一語で噛み締める。「んだ」は、耐え難いことにも耐えてきた東北人の、苦い苦い肯定なのだ。
 んだ。んだがらよ、夢さじいちゃん出てきて、家はおらが見守ってからおめは心配すんなと、こう言うだべ。んだな。いぐら心配したって家さ帰らんにではどうにもなんねし。空き巣がきたらじいちゃん化けて出ておどがしてくいんのがな。あいや、頼もしごど。
 んでね。おらほはそんなに放射線量は高くね。道で警察官が見張ってっから中さ入らんにだげだ。入ったってさすけねよ。政府の言うこと聞いてだら死ぬまで入らんによ。
 んだべが。政府の言うことはそんなに信用でぎねだが。
 んだべした。政府のおかげでわざわざ放射線量さ高えとこに避難させらっちよ。自分の家さいだほうが安全だったがもしんねのに、ごせやげっこと。
 んだべげんちょもよ。放射能なんかおらみでえな年寄りにはさすけねど。どうせもう寿命は残ってねえがら同じことだべ。おらさっさと家に帰りで。
 んだがもしんにげんちょもよ。一人で帰ったってさびしだげだよ。じいちゃんいるって、じいちゃん死んでっぺした。いいがら、家のことはじいちゃんにまがせどけ。
 んだ。じいちゃんにまがせどげ。
 んだな。死んだじいちゃんでは話し相手にはなんねもんな。
 んだ。生きてる人としゃべったほうが寿命も延びっちしな。
 んだんだ。
 んだんだ。

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