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谷隆一の「僕だってこんな本を読んできたけど…」

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『察知力』 中村俊輔

2009/08/30

淡白に見えて、実はストイック。
向上する男の「心」に(ちょっとだけ)触れてみる

昨年の本(幻冬舎新書)ですが、最近読みました。きっかけは今春の雑誌「ナンバー」(730号)です。サッカー選手の中村俊輔さんのインタビュー記事が出ていて、それが結構良かったんです。淡白で他人とあまりかかわろうとしないタイプの人と思っていたのですが、インタビューの中で「自分の経験を日本のみんなに伝えないともったいない」と語っているんですね。似たようなことは中田英寿さんも発言されていましたが、私は特に「もったいない」という部分にひっかかりました。これは、大きな視点があって初めて出てくる言葉だと思ったんです。

で、中村さん個人に急に興味がわいて読んでみました。いやー、ナカナカ良かった。あとがきの本当に最後の部分で、「スペインでプレーしたいという夢もある」と書いているんですけど、紆余曲折あって、実現しましたしね。今年は本当に楽しみです。

目からウロコだったのは、中村さんが結構熱い男だということ。バックパスの多いプレースタイルやテレビで見るインタビューの印象から「なんか煮え切らない男だなー」と思ってきたのですが、実は熱さを内に秘めるタイプなんですね。とにかく本全体から、向上心のすごさがビシビシ伝わってきました。それだけでも、読んだ甲斐があったというものです。大いに刺激を受けました。

しかし、あの貪欲さは一体どこから来るのでしょうか。負けず嫌いとかサッカーがうまくなりたいとか、たぶん、そんな言葉では説明がつかない、ある種の心の屈折があるのではないかと推察します。その辺が書かれていないのは、ちょっと残念ですが、本人がお書きになった(としている)本なので、仕方ありません。一応、挫折経験が書かれていますが、あんなものではない何かがあったはずと思いますよ。

と、まあ、それにしても、成長物語として、こんなに分かりやすいストーリーを体現してくれた人もめずらしいのではないでしょうか。中村さんというと、若い頃は確か腰が悪かったんじゃないかと記憶します。線が細く、長くやっていけるプレーヤーには思えませんでした。いつの試合だったか、「じいちゃんが死んで...」と目を腫らしながらヒーローインタビューに答えていたのを思い出します。試合終了間際にボールを奪われ、中田英寿さんにののしられていたこともありましたね。

それが今ではスコットランドでMVPに選ばれ、世界中のサッカーファンを驚かすフリーキックを蹴り、大きな期待を集めて新チームに移籍する選手になっています。そしてその目は、大きな視点で日本サッカー界をとらえているわけです。素晴らしいことです。

その原動力のひとつに、間違いなくご家庭があるはずなんですが、この部分はシークレットで大切に守っているのでしょうか。本書ではほんの少しだけ子どものことに触れられていますが、奥様のことも書かれていれば、もっと良かったように思いました。ま、テーマが違うと言われれば、もっともなんですけど。

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