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前屋毅の「世の中通信 ひっかき傷」

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豚インフルエンザと新型インフルエンザ

2009/05/07

「豚インフルエンザじゃなくて新型インフルエンザといわなきゃいけないらしいよ」
と、ウンザリ顔で友人がいった。いわれてマスコミ報道を注視してみると、「豚インフルエンザ」ではなく「新型インフルエンザ」と呼ぶようになっている。しかし、さんざん「豚インフルエンザ」と大騒ぎしておいて、いまさら「新型インフルエンザ」といわれてもピンとこない。ちょいと腹立たしげな友人の皮肉が続く。

「次に新しいインフルエンザウイルスがみつかったら、何と呼ばせるつもりなのかな? 新々インフルエンザ、か? それで、その次は新々々インフルエンザ?」

まるで笑い話だ。豚インフルエンザと呼ぶことで豚肉の売り上げに影響がでること、いわゆる「風評被害」を懸念してのことなのだろうが、それにしても〝芸〟がなさすぎる。新型インフルエンザと言い換えてみたところで、豚とインフルエンザをすっぱり引き離して考える人がどれだけいるというのだろうか。そうそう大衆を軽くみてもらっては困る、というものだ。

狂牛病とBSE

2001年9月10日、農林水産省が「国内で飼育されていた牛が狂牛病に感染していた疑いがある」と発表した。それから日本列島には「狂牛病騒ぎ」の大嵐が吹き荒れた。その騒ぎ様を私は、『安全な牛肉-「狂牛病」ここまで知れば食べられる-』(小学館文庫)という本にまとめている。その騒ぎのさなか、「狂牛病ではなく『BSE=牛海綿状脳症』と呼ぶべきだ」という議論が起こり、「BSE」が一般的になってしまった。牛肉が売れなくなって、「風評被害だ」と関係者が騒ぎ出し、それに政治家も尻押しする格好で、「狂牛病と呼んではいけない」となってしまったのだ。先ほどの私の著書でも、編集部の意向で「狂牛病」の後に「BSE」とカッコでいれられてしまった。

しかし狂牛病をBSEと呼ぶようになって牛肉を食べる人が増えたかといえば、そんなことはない。食べない人は食べないし、狂牛病騒ぎのなかでも「安全」を保証された牛肉なら食べる人は大勢いた。そんな呼び方なんぞで左右されるほど、大衆は単純ではないのだ。そこを見くびるから、いくら「安全だ」といっても信用してもらえないのだ。風評被害をつくっているのは、呼び方うんぬんではなく、「安全」を訴えるアピール度のなさでしかない。もちろん、ただ事を大きくしよう、大きくしようという姿勢だけが鼻につく報道のあり方には問題がある。

ともかく、豚インフルエンザを新型インフルエンザと呼び替えるのに知恵を使うなら、もっと違うところに知恵をしぼったほうがいいような気がする。大衆をみくびったようなやり方ではなく、もっと安全度をアピールする努力をしたほうが、よっぽどいい。ワクチンの開発を急いで、それをアピールしたほうが、よほど効果があるはずだ。

いわんや、豚インフルエンザの疑いがあると訴えてきた患者に対し診療拒否する医者が続出している状況は、どう考えればいいのだろうか。豚だ新型だといってるどころではなく、こうした医者のモラール低下、使命感の無さこそ、大騒ぎしなきゃいけないのではないだろうか。医者の診療拒否が続くことのほうが、よほど風評被害を招く。

事件が起きて時間が経つにつれ、「騒ぎ」が、どうも違う方向に向かっていく傾向があるようだ。「小事にかかわりて大事を忘るな」という諺を肝に銘じたい。

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