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前屋毅の「世の中通信 ひっかき傷」

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麻生首相と電気自動車

2009/04/10

ほんとにやれるのか? やれたらすごい! 麻生太郎首相は4月9日、2020年に向けた「成長戦略」を明らかにした。そのなかの一つに、「2020年までに新車の2台に1台をエコカーにしたい」というのもふくまれている。

しかし、「エコカー」の範疇がむずかしい。「エコなクルマ」というわけだが、まぁ、「排気ガスを出さないで環境に優しいクルマ」と解釈すればいいのだろう。真っ先に頭に浮かぶのがハイブリッド車である。その購入については政府が補助金をだすことを発表しており、その延長線上に麻生構想があるとおもわれる。

ただし、ハイブリッド車は排気ガスをまったくださないわけではない。電気とガソリンの併用だから、ガソリン車にくらべて排気ガスの量が少ないというだけのことである。これを「エコカー」といってしまっていいのか、そのうち議論になるだろう。

「排気ガスをださないクルマ」となると、筆頭にくるのが「電気自動車(EV)」だ。充電した電気だけで走るので、排気ガスはまったくでない。ポツポツと販売開始を表明しているメーカーもある。麻生首相が念頭においている「エコカー」が電気自動車だとすれば、2020年には自動車が吐き出す排気ガスが現在とくらべて激減した日本になることになる。

そのEVの普及もハイブリッド車のように購入時の助成によって促進しようとしているのなら、麻生首相のプランを実現するのはむずかしい。なぜなら、これから10年間で電気自動車が急速に広まる環境が整えられるかどうかむずかしい状況にあるからだ。

車検に65万円、充電に15時間

東京都稲城市は2009年度から、それまで7年間、公用車として使用してきた6台のEVを廃車にし、EVの採用を打ち切ることを決めた。理由は、「カネがかかりすぎる」からだ。EVそのものは「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」から無償譲渡を受けたものだから、タダだ。しかし2年ごとに車検とバッテリーの交換が必要で、その経費が1台あたり約65万円かかっていた。環境にはよくても、経費面での負担が大きく、それに耐えられず稲城市はEVの採用を中止したのだ。役所で耐えられないのだから、個人で耐えられるわけがない。いくら購入時に助成されるといっても、稲城市のようにタダになるわけではない。個人が気軽に購入する、とはおもえない。

さらに、EVの場合は充電が必要だが、現在のところ家庭用電源を使うと14~15時間もかかる。ガソリンなら数分で済むところが、こんなにかかっていては実用的とはいえない。工業用電源を使えば半分の時間で済むというが、その代わり基本料金がベラボーに高くなる。なにより、ガソリンスタンドのような充電スタンドが整っているわけではない。外出先でバッテリー切れになろうものなら、空調もきかない、ただの箱になってしまうわけだ。

こうした状況を改善して実用に近づけるためには、バッテリー技術の進歩を優先しなければならないし、充電スタンドの充実も推し進めていかなければならない。それができれば、経済的な波及効果も大きい。麻生首相の描く成長シナリオにピッタリくるのだ。ハイブリッド車にしても、まだまだ完全ではなく、さらに技術進歩をかさねれば魅力的なものになり、さらに普及していくはずだ。それには、国のバックアップが大きな力になりうる。

要は、「エコカー」を増やしていくために必要なことは「国が技術進歩をいかにサポートできるか」なのだ。そこを抜きにしては、「新車の2台に1台」など「絵に描いた餅」に終わってしまう。いまのところ、「2台に1台」をどうやって実現していくのか具体策が明らかになっているわけではない。さてさて、いかなる具体案が示されてくるのか、楽しみなような、不安なような・・・。

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