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みんな、最初は、ぜんぜんだめだった。。

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鳥越俊太郎さんの巻。

2008/09/23

30歳になったときは、なんにも思わなかったけれど、
40歳になったときは、
「えっ、もうこんな年齢なんだ」と、
ちょっと落ち込んだ気分になりました。

もう若くないんだし、
これから人生の後半にさしかかるんだと思うと、
ちょっぴり、さみしい。
それに、
これまでに「これをやった!」という思いはなく、
むしろ、
「あれをやっておけば......」という
もったいない思いのほうがあったりして。。。

「不惑」の年齢というのに、
そんなことばっかり思ってる自分は、
やっぱ、だめかもしれないなあ。
と、
へこみぎみのときに読んで、元気をもらったのが、
鳥越俊太郎さんの
『あめりか記者修業』(中公文庫、1989年)
でした。

なんと、
鳥越さんも、
毎日新聞の記者として
40歳になろうというときに、
「次第に諦めと断念へ自分の気持ちを慣らし始めていた」
なんていうのです。

東京へ出てきたときすでに入社十一年目、三十五歳。やがてロッキード事件が始まり、私は国税庁担当記者として、口のかたい国税庁関係者宅への夜討ち朝駈けに明け暮れる中で三十六回目の誕生日を迎えた。
 あるとき、何がキッカケだったか忘れたが、同僚との会話の中で定年まで何年という話になった。
 私は自分に残された時間が、指を折って数えられることを知って愕然とした。
 このまま流されるように四十を迎え、五十を通りすぎ、五十五歳の定年に到達する。そして何が残るのか。特ダネ競争に身を削るのを空しいなどとは決して言わないまでも、自分の人生後半を受身でない側に立ってみたい。(同書21~22ページ)

中年の一歩手前の年齢になると、
鳥越さんだって、だれだって、
大なり小なり、同じような気持ちに
なってしまうのかもしれません。

でも、鳥越さん、
ここで大きな挑戦をするんですね。
きっかけは、
新聞の夕刊にでていた
「米国郊外新聞協会で実習生募集」
という小さなお知らせ記事。
つまり、
おじさんだって留学しよう!と。
そのころ英語はぜんぜんだめ、だったようですが......。

(実習生募集の)申込み用紙の中に経歴、趣味、希望を英文で書き込む欄があった。冗談じゃない。自慢じゃないが英作文などまるっきり無縁の衆生。えいっとばかり、英語力抜群の同僚、佐藤由紀嬢に書いてもらった。
 ある日会社の卓上にある電話が鳴った。これから電話で英会話のテストをやるという。
 おおいにあわてた。
 別室で中からロックした。
 シドロモドロの悪戦苦闘。今思い出しても肌に汗を覚える。
 それでも私は合格した。出発前のある日、このプログラムを主宰する池田吉和氏と雑談中、氏は何気なく言った。
「あなたの英語は、試験官のアメリカ女性が首ひねったんですがね。申込み用紙の文章が百パーセントのパーフェクトだったんで、結局合格にしたんですよ」(同書23ページ)

毎日新聞社を休職して、
ペンシルバニア州の田舎町へ。
「クェーカータウン・フリープレス」
という新聞社で働きはじめた鳥越さん。
42歳の誕生日の直前だったそうです。

で、
1年後。
アメリカの田舎の新聞社で働いたことの充足感を味わいながら、
鳥越さんは、
サヨナラパーティの席上で、アメリカの人たちに、
長いお礼のあいさつをします。

「みなさん、ほんとうにありがとう。これは多分、私がこの町、いやアメリカでする最後のスピーチになるはずです(だれかが「No,No,you come back soon」と声をかける)。だからみなさんがよくご存じのように、私の下手くそな、まちがいだらけの英語を聞く最後の機会となることでしょう。一年間、その難行に耐えてくださったみなさんの忍耐力に感謝します。
......私は一年間コラムを書き、この町の人びとに読んでもらったことを大変嬉しく思っております。そして私はじつに偉大な仕事をしたのではないかとも思っております。それは多くのアメリカ人が日本人に対して抱く偏見――日本には車のセールスマンしかいない――を私が打ち壊し、日本には新聞記者もいるという事実を証明したことです(大爆笑)。
......みなさん、ほんとにありがとう。私はいま大変エキサイトしています。こういうときは歌をうたうことにしています。これは日本の収穫の歌です」
 私は九州・宮崎の民謡「刈干切唄」を、ワインとビールとそして何かに酔って歌った。(同書277~280ページ)

帰国後、
鳥越さんは毎日新聞社のテヘラン特派員となり、
サンデー毎日の編集長もつとめ、
そして新聞社を辞めてテレビのキャスターになったのです。
42歳でアメリカ留学に挑戦し、
それが転機になったんですね。

数年前、
ある雑誌の取材にかこつけて、
鳥越さんにお会いできたとき、
この『あめりか記者修業』を手にしているわたしに向かって、
「その本は、あなたのような年齢の人たちに書いたんですよ」と。
新聞記者さんが書いた本は寿命が短い
なんていわれますけど、
この鳥越さんの本は復刻されて、
いまもロングセラーとなっています。

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